■セイシェル皇国 背景<トリゴの村>
ジュリア「――では、これをゲルブライト家に届けてください」
ジュリアは二通の封書――かつての自領の危機と不穏な影の存在を知らせる手紙をアビゲイルに手渡した。アビゲイルはそれを一瞥し、懐に閉まう。
アビゲイル「確かにお預かりしました。……それで、ジュリア様はどうなさるおつもりで?」
ジュリア「皆のために何か出来る事はないか、考えてみようと思います」
ジュリアの言葉にアビゲイルは微笑み頷く。
アビゲイル「後で必ずお迎えに参りますので、くれぐれも無茶はなさらないで下さいね。それでは、また後程!」
アビゲイルが天馬に跨り手綱を繰ると、天馬は翼を羽ばたかせ駆けて飛び立って行った。ジュリアは去り際に手を振るアビゲイルを見送り村へと向き直る。
簡易的ではあるものの家屋は修繕されており、人々も落ち着きを取り戻しつつある。それらの様子を見届けたジュリアが向かった先は……。
■セイシェル皇国 背景<トリゴの村 厩>
――考えるまでもない。
ジュリア「シュトーレン」
ジュリアが馬小屋の扉を開け名を呼ぶと、愛馬シュトーレンは耳をピンと立て主人の顔を見返した。
ジュリア「この有様を知らん顔してゲルブライト家に戻るなんて出来ない。君もそう思わないか?」
黒き愛馬はその問いに答えないが、その代わりのように主人の頬に鼻を擦り寄せる。
ジュリア「そうだろ。……アビゲイルには釘を刺されたけど、次はもう少し上手くやるさ。それにあいつが何処へ行ったか、何か手がかりが残っているかもしれない。大体調べ物ってなんだよ、今更……」
「ジュリアさま……?」
静かに、不意打ちのように名を呼ばれ、ジュリアは弾かれたように振り返る。
小屋の入り口越しからジュリアの様子を伺うようにケヴィンが立っていた。
ジュリア「ケヴィン、どうしたんだ? 皆のところに居なくても良いのか?」
ケヴィン「ジュリアさまが走っていくのが見えたから、追いかけてきました。……あの、もう帰るんですか?」
ジュリア「いや。自分の目で確認したい事が出来てね。戻るのはそれが終わってからだ」
ケヴィン「確認したいこと……それは何ですか?」
ジュリア「この村を襲った賊共が引き上げていった先……アビゲイルの偵察によるとそこはファレンシス家邸宅、つまり我が生家だったそうだ。現状がどうなっているのかこの目で確認しに行こうと思う」
ジュリアの言葉にケヴィンは目を見開きあわあわと首を横に振る。
ケヴィン「そ、そんなの危険すぎます! 大人に任せた方が良いと思います」
ジュリア「その大人が信用出来ない」
ジュリア「……現に賊共を手引きしていたのはゲルブライト家から遣わされている者だったろう? もし君たち民を裏切っているのだとしたら、尚更見過ごすことは出来ない」
ケヴィンは俯き「でも……」と言い淀む。
ジュリア「ケヴィン。私は自分の力で君達や故郷のために何かしたいと思っている。私を未来の領主に、と望んでくれた君たちのために何かをさせて欲しいのだ」
ケヴィン「……」
ジュリア「なに、実家の様子を見に行くだけの事。君は何も心配しなくて良い」
ケヴィン「……じゃあ、僕にもジュリアさまのお手伝いをさせてください」
ジュリア「それこそ危険だ。私の勝手に君を巻き込むわけにはいかない」
ケヴィン「みんなのために頑張るのが領主様だとしたら、領主様のために頑張るのが僕たちです。それに、表から出たらレシエさまや他の大人に見つかって引き留められます。ここから村の外に出るのにあまり人に見られない道を僕が案内します」
ジュリア「……では、また力を貸してくれ。よろしく頼む、ケヴィン」
ケヴィン「はい! ジュリアさま」
***
たいへんながらくおまたせしました
冒頭は作ってたけど本当はもっとちゃんとして上げたかった
次はちゃんとやるです