■Aルートエンディング
旅をする者
・アポストルのその後
ラニア城内のどこか。ミケイルは最早体を起こすだけの力もない。ほんの数刻後、マクダレーナによって創造された躯体は塵と消える。
「マクダレーナ、様」
それが無理だと知っていても、ただマクダレーナに愛してほしかった。
それが「そのように作られたから」ではなく、自分の意思だと気付くのが遅すぎた。
マクダレーナを復活させようとした者の物語は最早、終わったのだ。
「………」
そんな彼の前にいつの間にか傍らにたたずむ者がいた。
「ガリアント?」
彼女はもはや動かぬミケイルの右腕を握る。
「ミ、ケイ、ル」
ミケイルにはそれがとてつもない奇跡に思えた。
自分のように自分の意志で考え、マクダレーナの意思を柔軟に遂行するために偽りの心を持たされた己とは異なり、戦闘、殲滅、破壊を無慈悲に遂行するためだけに作られ、意思など持つはずもない彼女が、言葉を発したことを。
「―――」
マクダレーナの為でなく初めて自分の為に。母と言える存在を取り戻すために。
それがたとえマクダレーナ意思のそぐわなかったとしても。
自分の意思で必死にあがいた彼へのただ一つの報酬。それがガリアントの言葉。
「くそ……」
結果はどうあれそれでいい、と。納得できた、満足できてしまった事へ悪態をつく。
最後にどこか満足した心。それだけを胸に刻んで――
――そして、本当の願いをまた一つ取りこぼした一人だけが、その場に残されていた。
・ラニア
トリーシャ「大臣、貴方はカーティス王の命令で動いていましたね?エクウェスを組織し、王に対する反抗勢力をまとめ上げていた。それは全て」
新大臣「……ええ。言い逃れは致しません。カーティス様の意志です。カーティス様はこの国を執念ともいえる思いで必死に守ってこられた。己の全てをかけてより良い国へ導くため自ら捨て石になっても良いと。私は、その思いに答えたかったのです。」
ディルカ「……」
フローレ「……」
トリーシャ「もし誰かの思惑に乗るだけだとしたら、それはお父様と変わらない」
トリーシャ「もし狡猾に何者であろうとも利用し自らの命すら差し出すのなら、それはカーティスとは変わりない」
トリーシャ「大きな力に縋るしかなかったお父様、命を賭し手段を択ばず次に託したカーティス。私はそのどちらでもないのですから」
新大臣「無論ですとも」
トリーシャ「民たちにも、カーティスのやった事の真実を伝えたいと思うのです」
新大臣「それは…」
フローレ「貴女は、お父様が命をとしてやった事を台無しにするつもり?」
トリーシャ「かつて、カーティスはベルターナ進行に際して嘘をついてまで民を先導した。曲がりなりにもカーティスは本当の事を民に話しました。私がそれすらできずどうするのです」
フローレ「……」
トリーシャ「これからの困難に向かうために、大臣にも、フローレにも、ディルカにも。私は一人ではこれからも力を貸してほしいのです。どうかお願いしたい」
新大臣「許されるのであれば、もちろん」
フローレ「貴女が、間違いを犯さないように。隣で見ておいてあげる」
ディルカ「もちろん。フォルトゥナ様の恩に報いるため。トリフォニア様、貴女と共に戦いましょう」
・セイシェル
モンテーロ「マルギット様。我々は、貴女のやり残したことを…ラニアの大冬の傷跡を少しは癒すことができたでしょうか」
メルツェル「よ、モンテーロ」
モンテーロ「メルツェルか?」
メルツェル「大したことじゃねえよ。俺の行き先の話だ」
モンテーロ「……アステルを追うのだな?」
メルツェル「ああ、ベルターナに渡すわけにはいかねえだろ?これは大陸の今後を決める大きな点になる。後の事は任せたぜ」
・ベルターナ
レク「お嬢様…いえ、皇帝陛下の名代としてオーキスさん、貴方に感謝を。思った以上に働いてくれました。ベルターナは現状表立って行動を起こす訳にはいきませんでしたから」
オーキス「報酬が良かったからな。それに加えてエクウェスの方のから出た報酬でしばらく楽ができる。割のいい仕事だったよ。」
レク「それでも引き受けてくださってありがとうございました。引き受けてくれないかと思ってましたから」
オーキス「よせよ。俺はもうベルターナとは関係ない…。他に何かあったとすれば気の迷いだけだ。」
ムサシが飛び込んでくる。
ムサシ「すみません!ちょっとイイっすか!」
オーキス「おいムサシ」
ムサシ「レクさん!一つ頼みがあるんす!」
オーキス「悪いなレク。こいつは」
レク「いえ。話ぐらいならば」
ムサシ「人器の件っす」
レク「……話を、聞かせてもらいましょうか」
・エクウェス
シェリカ「……」
ディルカ「よう、シェリカ。どうしたそんな悩んだ顔して」
シェリカ「なんだ。ディルカか」
ディルカ「なんだって事はないだろ」
シェリカ「貴方は、ソフィアの事を覚えている?」
ディルカ「忘れるわけねえだろ」
シェリカ「私には最後の最後が理解できなかった。何故、彼女はマクダレーナの作り出した異形なる存在に適合できたのか。けれど、今回の事で論理は不明だけれど結論だけは観測できた」
ディルカ「……さっぱり分からん。」
シェリカ「とにかく、今回私は魔術的にも天才の私でも理解に時間のかかる現象を目の当たりにして、やっぱり私一人で魔道の研究を続けるだけでなく、各国の私には及ばないかもしれない天才たちにも声をかけて…
ディルカ。これからもエクウェスの助力を期待しているから」
ディルカ「おいおい、俺はエクウェスの長を続けるとは…」
シェリカ「貴方は続けるでしょう?」
ディルカ「……そうだ。続けるさ、この国の為に。陛下の忘れ形見であるトリフォニア様の為にも」
シェリカ「どうしたの?意外そうな顔して」
ディルカ「いや…シェリカに続けるのを見抜かれたのが意外だっただけだ」
シェリカ「……なにそれ」
フェードル、アレックス、フェードイン。
フェードル「そのあたりにしてやってくれないか、ディルカ。シェリカも5年前に比べれば随分と他人を意識するようになったのだ」
ディルカ「それは…いや。意外に思った時点で言い逃れが効かないか」
フェードル「シェリカ。君なりの親愛の証だとは思うが心を許した相手に魔術的研究の話をするのは、なかなか相手に理解を得られないと思うぞ?」
アレックス「兄くん、さらっとのろけるよね。」
ディルカ「………やれやれ」
シェリカ「さすが私のフェードル。嬉しいこと言うのね」
アレックス「兄くんはお前だけの物じゃないぞ!?」
言い争いを始める二人。
フェードル「それで、ディルカ。エクウェスの長よ。」
ディルカ「ああ。これでやっと、フォルトゥナ様に少しでも恩を返せた」
・仲間たち
全員揃った絵はムサシの元へ。
シャルティエル、レア、ムサシ、コメット、フローレ、トリーシャ、アリナレイドの描かれた1枚の絵:作シャルティエル。
を眺めるコメットとアリナレイド。
コメット「アリナさん。これ、いい絵だよねえ」
アリナレイド「そうですねえ。」
コメットの髪を結うアリナレイドの一枚絵。
アリナレイド「コメットさん。趣味に精を出すのはいいですがちゃんと運動はしていますか?食事はしていますか?」
コメット「君は僕のお母さんか!っていうか、趣味ってだけじゃなくてちゃんと仕事だからね!?」
アリナレイド「あ…いえ。そんな……迷惑、でしたか?」
涙目差分
コメット「そんなへこまれても困るよ!?」
アリナレイド「あ……本当に…」
コメット「ん~~~~。僕のお母さんは一人だけど…いいよ!僕の事撫でろ!それで甘やかせ!気が晴れるまで付き合うよ!」
アリナレイド「コメットさん…」
ムサシ「あ、お二人とも!」
アリナレイド「どうしたんですか?そんなに慌てて」
ムサシ「俺、これからシャルさんを追いかけるんす!何ならお二人もどうっすか!?」
コメット「え…」
ムサシ「」
・レアとシャル
家々が焼け落ち、舞い上がる黒煙が天を汚す。
炎に巻かれ逃げ惑う人々の悲鳴は、幽鬼がごとく者達によって刈り取られていく。
顕現した混沌と地獄の中、一人の少年だけが生き残っていた。
その少年は何を思うのだろう。誰かを助けようとしたのだろうか。それとも逃げようとしたのだろうか。
だが、その勇気も恐怖ももはや役には立つまい。
幽鬼たちの長である白髪の魔女が少年の前に立っているからだ。
魔女は少年の頬に触れる。愛おしさを隠しもせず。
少年は動けない。
魔女は嗤う。憎しみを隠しもせず。
少年は動けない。
魔女は囁く。呪いを込めて。
少年は動けない。
けれど、少年と魔女の間に立つものがいる。彼女は魔女と同じ顔をしているけれどどうしようもなく明るくて、どうしようもなく自分勝手で、けれどその傍らにいる。
倒れた少年へ右腕を差し出した。少年は…シャルティエルはその手を取る。
そしてシャルティエルは目を覚ました。
「おはよう、シャル」
「……」
シャルティエルの顔を覗き込むレアが、そこにはいた。
「それで、これからどこへ行くんだっけ?」
「セイシェルでも、ベルターナでも…南の果てでもどこへでも。俺は世界を股にかける冒険者だからな」
「約束だもんね。」
レアの顔を見てふとマクダレーナを思い出す。…いまだに恐ろしくて身震いしてしまう。けれど。
「どしたの?」
「なんでもない」
隣を歩いてくれる者がいる。それだけで、なんとなく愉快に思えるのだ。
彼等の進む先には、空に座する異形なる存在が。
彼等を追う者たちもいる。
例えば盗賊。例えば騎士。例えば天使。
さあ、物語を、続けよう。彼らの道は始まったばかりだ。
使徒編 完